この旅の終着点であるロンドンで何をするかは、あまり考えていなかった。
何をしようかなーと宿で調べたところ、どこも洒落にならない高さでびっくりする。
せっかくロンドンに来たのなら本初子午線でもジャンプしたいなあと調べたら、グリニッジ天文台への入場料は5000円。そこまで払うほど行きたいわけじゃない。
このときの1ポンドは200円ほど。現地でも物価高が叫ばれるなか、円安をひっさげて日本人が観光しにくる環境では全くない。感覚としてヘルシンキ・パリとはレベルが数段違う気がする。なんだか、日系企業で地道に働く自分の国際競争力の弱さに直面して落ち込んでしまった。
すっかり牙を抜かれた私は、おとなしく入場無料のミュージアムへ行こうと宿を出発した。

ただ、お金をかけなくても旅は楽しい。すれ違う車、建物、犬、ファッション…すべてが目新しい。脳内の引き出しを開け、持っている知識と照合させるともっと楽しい。同時に、今よりも教養があれば旅は更に楽しくなるんだと思う。土地を奪われ何度も移動を余儀なくされたユダヤ人の教えに「唯一奪われないものは教養である」という言葉があるのを思い出した。ただの貧乏旅行中の私とユダヤ人を重ねるのは失礼極まりないが、それでも少しだけ、その教えが実感を伴った。

向かったのは、いずれも国立美術館のテートモダンとテートブリテン。現代美術品を収蔵したテートモダンは、火力発電所を改築したそう。無機質な大ホールに鎮座するルイーズ・ブルジョワの蜘蛛の存在感たるや。収蔵品にロンドンらしさはあまり感じなかったが(ダミアン・ハーストとかたくさん見たかった…)、それでもとても豪華だ。個人的には、ことし3月に閉館したDIC川村記念美術館で別れを惜しんだマーク・ロスコの部屋に再会できて嬉しかった。
テートモダンはテムズ川沿いにある。川面は灰色で淀んでいた。産業革命からの歴史が積み重なっているような汚さだった。

一転してテートブリテンはイギリスらしさ全開。ウィリアム・ターナーをはじめとしたイギリス・ロマン主義やラファエル前派の作品がところ狭しと並んでいる。一番有名なのはミレーのオフィーリアだろうか。そうか、ここはシェイクスピアを誕生させたイギリス。さすがに時代が昔すぎてあまりピンと来ていなかったが、この作品をみて思い出した。

そしてすごく観たかった、ジョン・シンガー・サージェントの「カーネーション、リリー、リリー、ローズ」。白い花々に囲まれた白いドレスの少女たちが、ぽわんと光る提灯を持っている。幻想的な風景だ。サージェントは、夕暮れ時の光に包まれる数分間を描きとめるため、モデルの少女たちを据え、毎日同じ時間にこの絵を描き続けたそう。絵画には、一瞬の美しい時間を永遠に閉じ込める力がある。作者の心の揺らぎごと。今はもう生きていない少女たちに、心の中で「また会いに来るからね」とつぶやいた。

2つの美術館の間に昼食をとった。友達がお勧めしてくれたNando's!南アフリカを拠点としたチキンチェーン店で、ロンドンではケンタッキーより店舗がある。チキン、なぞの豆とヨーグルトのサラダ、フルーツサイダー……。

………うますぎる!!!なんだこれは!!!!スパイスふんだんのチキンはニンニク生姜レモンなど複雑で豊かな香り。がつんとした辛みと酸味ながらも奥行きのある味わい…。日本には店舗がないのに、こんな美味しいものがあるのを知ってしまった。恋愛ドラマでよく見る「私たち、出会わなければよかったのにね…」ってやつだ。今すぐ転職して、ナンドスを日本に呼び寄せる仕事に就きたい。南アフリカに聖地巡礼もしたい。食に困っていたロンドンで光明を見つけました。
テートブリテンから電車に乗ってノッティングヒルのエリアに移動。ロンドンの地下鉄(チューブ)は世界最古の地下鉄だという。かまぼこのような形で凄く天井が低い!冷暖房も効いていないし電波も通らないし騒音も大きい。歴史はとても感じます。発展が早かった先進国ほど設備が古く不親切なのは、旅で感じるギャップあるあるだ。

冒頭の話に戻るが、旅を楽しむ教養として一番コスパが良いのは、聖地となっている映画を観ることだろう。「ノッティングヒルの恋人」、観ていません。観た人に比べ感動も半減だと思うがパステル色の可愛らしい街並みを歩いた。

途中でイギリスの独立系書店「Daunt Books」にも足を運んだ。ここのトートバッグを持った人をパリでも数人見て、あまりに可愛くロンドンで絶対買おうと思っていました。文庫が20冊は入るであろう大きいバッグを購入!本当に可愛くて買って良かった。

店内には若い女性がたくさんいて活気があり驚いた。そして柚木麻子「BUTTER」が山積みになっている!(英語版のほうが装丁かわいいよね)私はこの本に共鳴した女性は全員仲間だと思っているので、とても嬉しい気持ちになった。
夕ご飯は友達と待ち合わせて中華料理を食べた。牛肉麺とチャーシュー丼。甘い味付けで謎中華だ。たぶん中国のどの地方の味付けでもない。これはロンドンで発展したロンドン中華だなあと思った。味に文句はないが、それぞれ2600円で衝撃を受けた。
それから友達とパブにはしご。本場イギリスのパブ文化を体験できて嬉しい!日本では見たことないビールの銘柄やシードルなど気分があがった。色々な味を楽しみたい身としては、ハーフパイントを選択できるのが助かる。子供もたくさんいてパブは日本のファミレスのようなものだと教わった。

赤いバスの2階に乗って帰路につく。長くなってしまったが、ここまで読んでくださりありがとうございます。























写真はkodakfz55







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画像はhanakowebより




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